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木村伊兵衛さんのこと(「アサヒカメラ」今月号・・2)広田尚敬

「アサヒカメラ」2015年9月号記事で気になる鉄道関係のページが、もう一つありました。
それは木村伊兵衛さんの写真と記事です。

木村伊兵衛さんと、土門拳さんは、戦後のカメラ雑誌で大活躍をされた、超実力派です。
そのお二人の名作を、「アサヒカメラ」は毎号一見開きずつ、当時の作品と、現代人の文章で構成しています。

今月の土門さんは、牛尾さんの文章と、薬師寺の観音菩薩像で組まれています。

DSC01828.jpg

一方、木村伊兵衛さんは、鶯谷駅の写真でした。

DSC01833.jpg

文章は、谷中、根津などの地域雑誌を長いこと出版編集していた女性が担当していました。
鶯谷と、地域的に繋がりがありそうです。

DSC01831.jpg

1948年の撮影です。
カメラは当然ライカです。
レンズは標準50mmでしょうか。

伊兵衛さんは、2面あるホームの、上野有楽町方面行きの海側ホームから、山側の田端方面行きホームを狙っています。
バックの丘と、出口の方向案内で、視覚的に、それと分かります。
背もたれの大きい木製の椅子には、4人の女性が腰を下ろしています。
この女性たちは、コスチュームから、一目で行商の方(当時はかつぎやさんと呼ばれていた)と分かります。
彼女たちは、主に、常磐線、成田線、総武線、京成電鉄を利用し、千葉、茨城から食品を背負って都内を行商して歩きました。
米が払底いていた戦後間もなくは、管理されていた品のため、警察の一斉などで、かつぎやさんたちは悲惨な目にあっていましたが、このころになると緩やかになり、成田線には彼女たちの指定車輌、京成には専用電車があったほどです。
すべて、日帰りの商いです。

このころ、山手、京浜線(現、京浜東北線)は、田町~田端間を、同じ線路上を走っていました。
写真でも分かるように、ホーム間の空間(画面右下)には、バラストもレールもありません。
速度は40キロ。それ以上は出しませんでした。

この伊兵衛さんの写真で、「さすが」と唸るところが2点ありました。

●そのいち
4人の女性で、いち若の女の子が顔をあげた瞬間をキャッチしていること。
それだけでは驚きませんが
写真を見る人の目が、その女性に行くよう、電車の明るい連結面を彼女の頭上に持ってきているのです。

その空間は、まるで、矢印みたいな効果を出していると思いませんか。

シャッターチャンスは、いち若の子の顔方向を見据えて、早すぎず遅すぎず、まさにアンリ カルティエ-ブレッソン同様、決定的瞬間を逃していません。

あとはモハ50とおぼしき、山手線電車のパンタグラフが、いい位置にきているし、
右手車輌のナンバーが、これまた絶妙な位置で捉えられているではありませんか。
この2つは偶然かもしれませんが、偶然を意識的無意識的に呼び込めるか否かが、
名人と凡人の分かれ道なのかも知れません。

余談ですが、電車の扉、ガラス部分が板張りになっています。ガラスがまだまだ高価というより、
混雑で割れないようにという配慮の性格が強かったようです。

●そのに
カメラ、ライカは彼女たちを正面からではなく、左から若干斜めに捉えています。
そこも唸りました。
真正面では、画面に動きがありません。
それに目立ちすぎて、いい表情は捉えられなかったかもしれません。
こちら側の椅子に座っていたら、伊兵衛さんのシルエットは椅子に同化したでしょうが、
立って撮影しています。
立っていることは、画面の垂直方向に目を走らせ、
写された物体の水平面を見れば分かります。
ここでは、椅子の背、天部分が、ほぼ水平に描写されているので、
このあたりにカメラ高があることが、うかがい知れます。

斜めにしたことで何が生じたか。動きが生まれました。
ホームを右上がりの斜めの線で捉えています。
これで電車にも動きが出ました。
でも、一見するとこの動き、右から左へすべるような動きと捉えがちです。
上野行きと思ってしまいそうなところです。
心理的にはそれが一般的感覚かも知れません。

ところが違うのです。
ホームの人たちは、左からの電車が止まるのを待っています。皆さん心持ち、左を向いています。
電車はブレーキをかけているのです。
自然の摂理に反した行為、人為的に止めるという行為を、重力に置き換えて、表現しているわけで、
私にはブレーキ音や、熱までも感じられるようです。

凡人なら画面構成はここで終ります。
でも名人は違うのです。

水平に構成した屋根を見てください。
この黒い屋根、どっしりと画面の天に、まったく平に置いたことで、
ともすると軽薄なラインになり勝ちな斜め感覚を押さえ、
軽やかな中にも重厚とか秩序を取り入れた写真に仕上げているのです。
しかも、重さや息苦しさを感じさせず、さらりと・・・
ごくごく日常的に・・・
伊兵衛さんらしく・・・

私はいま、伊兵衛さんらしくと申しましたが、ここが大事なポイントです。
写真はその人らしく。
言ってみれば自分らしく。
すなわち個性が大事だということです。

個性は作り上げるものではありません。
自然に、体の中から、わき上がってくるものです。

だから私は、伊兵衛さんの写真が好きなのです。
今だ、多くの人に愛されているのです。

いま、プロの鉄道写真家に、個性ある人が何人いますか。




      写真は前回同様、すべて「アサヒカメラ」より
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