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●RM368「雪の花PARTY 東急田園都市線」

●RM368
「雪の花PARTY 東急田園都市線」

雪の夜の電車たち。普段見せない魅惑的な連続シーン。

動画:  6分19秒
撮影:  2014年2月14日
制作:  2014年2月17日

都会の雪は、現実を覆い隠す。さらに日が暮れ、夜になると魅惑的な光景を静かに語りはじめる。
RM誌の撮影がメーンのこの夜のカメラは、ソニーRX1(あざみ野の俯瞰)と、EOS5DmkⅢ(ほかすべて)だった。湿り気を帯びた吹雪にも耐え、幾つものロマン溢れるシーンを描いてくれた、よき友。


S東急あざみ野●DSC05031

S小田急DSC04843


夜景について

わが国最初の鉄道写真コンテストは「鉄道模型趣味」で開かれた。主催が「鉄道ピクトリアル」に移行されると、そこにも毎年応募を欠かさない鉄道写真フェチの私だったが、ピクトリアルになってからの応募は、殆どが夕景あるいは夜景だった。
ところが、ある年の審査で「暗さの中にも明るさがほしい」と指摘されて見事落選。励ましの言葉として受け止めると、夕景夜景は控えるようになった。
審査は錚々たる方々で行われていた。高松吉太郎さん、宮松金次郎さん、西尾克三郎さん、萩原政男さん、黒岩保美さん、西尾源太郎さん、臼井茂信さん。こうした方々が今日の鉄道写真に深くかかわっていたのだが、残念ながら故人。しかし最近宮松さんの若さあふれる作品をRMライブラリー「関東鉄道竜ヶ崎線」で拝見し、懐かしく思うと共に、改めて「明るさが・・・」という、当時のピクトリアルに掲載されていた宮松さんのコメントを思い出していた。
そのころの私は、大好きだった父と母を相次いで亡くし、暗く静かな少年になっていた。夕景夜景を好んで被写体に選んでいたのは、そんな気持ちの表れだった。それだけに宮松さんのコメントが体中に沁みこんだものの、根底に宿る暗い気持ちは簡単に払拭できるものではなかった。
あるとき、太陽のように明るい少女とめぐり合って恋心を抱いた。家庭を築いてからはいち早く家に、子供たちの下に帰るようになり、心の暗さと夜の写真は、次第に過去のものになっていた。
私の写真、映像は、心の叫びでもあるということだ。


構図について

趣味写真に、はたして構図が必要なのだろうか。長いこと、もやもやした考えが体のどこかに存在していたが、最近は“必要ない”と考えている。もう何年も前になるが「撮りかた」を著したとき、黄金分割の方法を記したものの、その後は構図について、いっさい触れることはなかった。趣味写真はアートの眼差しを必要としない。そこに必要な情報がしっかり記録されていることこそが大切なのだ、ということである。
当然のことながら、鉄道写真の世界も同じである。毎月発行される月刊誌の写真を眺めると、そこには黄金分割も、3分割も存在しない。必要なのは先輩たちが築いた方法作法を守ればいいだけのことだ。

この半年ほど、かなり忙しい日々が続いていた。本人はまったく気づかないつもりでいるが、年齢的に能率が落ちたということと、新たに「鉄道動画.com」を構築するため奔走していたからだ。おかげさまで「鉄道動画.com」は、若い方々に支えられてスタートを切れたのは幸である。何年も前からアイパッドのような小型端末機の普及で、鉄道動画の必要性を感じていたからだ。いや、それ以上に動画に対して強い興味を抱いていたからだ。

一昨日、出掛けにまだ封も切っていない雑誌を手にすると玄関を出た。薄くて手軽そうな一冊。バスを待つ間、都心に向かう電車の中で眺めようと選んだのは、サークル誌「モーメンツ」11月号だった。世界的な写真家、アンリ・カルティエ=ブレッソンに学ぶ“構図の美”を特集している。
そこには“幾何学的リズム”あるいは“力点”という言葉を用いながら作品の黄金分割を分かりやすく力説している。よりよい構図を目指すには何が必要か、基本はもちろん黄金分割に支えられた、3分割としている。
3分割法は昔から唱えられている事柄だし、一眼レフのファインダーなどに、グリッドラインとして備わっているので、ご存知の皆さんも多いだろう。しかしあえて分割方法を記すなら、まず画面の角、ABCDから、AD、BCと対角線を引き、その線に4隅から垂線を引いて交わったところがスイートスポットとするものだ。スポットは当然4つ生まれる。さらにそのスポットから、2本の垂直線、2本の平行線を引くとスイートラインが表れれる。こうしたスポット、ラインを抑えることで安定した画面が得られるというものだ。
私は電車に揺られながら一連の記事を肯定的に読み込んでいたが、同時に内容に違和感を覚えたのも事実である。

そもそも黄金分割とはいつの時代から叫ばれるようになったのだろう。自論ではあるが、ギリシャ建築のビザンチンからしてそうだとなれば、ギリシャローマ時代から存在しているといえそうだ。人によっては洞窟に描かれた原始絵画に始まるという向きもあるが、いずれにしてもかなりの歴史があるということで、写真界におけるその論理は、西洋絵画から来ている節がある。したがってブレッソンの写真を黄金分割すなわち3分割法で分析するのは常識的と判断できるが、私はそこに違和感を覚えたのだ。
「写真は瞬間の喜びであり、幾何学だ。すべては一瞬の構図で決まる」とブレッソンは述べている。ではそこに至る過程はどうなのか。
「絶えず構図を頭に描いている必要がある。けれどシャッターを切るときの構図は直感だ(中略)。黄金分割を探りあてる唯一のコンパスは写真家の眼だ」(いずれもmoments2013年11月641号から引用)
ならば、ブレッソンの眼差し、構図はどこから来たのだろう、3分割法では説明しきれない“深さ”を、私はそこに感じていたのである。

S1,1~3HenriCartierBresson,moments641号から。北斎の版画を髣髴する構図と思えないだろうか。私には波頭が見えてくる。

S2_201403171817003a7.jpg

S3_20140317181701fd3.jpg
HenriCartierBresson[moments]641号から(上3枚)
北斎の版画を彷彿する構図に思えないだろうか。とくに3枚目の作品からは、富嶽36景(下)の波頭が見えてくる。

モーメントに掲載されているブレッソンの作品を眺めていると、いいしれぬ深みがあるのだ。私はその深さの源は、日本の江戸文化にありと考えてみた。端的に言うと葛飾北斎だ。あの躍動感、遠近感は間違いなく北斎の作品に重ね合わせることが出来ると思った。
北斎の作風は、ヨーロッパのアーチスト、たとえばドガ、モネ、ゴッホなど、それまでの2次元を前提とした絵画に多大な影響を与えているのは周知の事実だ。マチスと親しい間柄にあったブレッソンが、江戸文化の存在を知り、影響を受けたことは作品を見る限り否定できない。

私は今、江戸文化と北斎という両方の言葉を用いたが、中味は一つと解釈していただいてよい。実は「富嶽36景」で最も有名な「神奈川沖浪裏」の、あのストップモーションのような浪の描写は、千葉県の欄間彫師、波の伊八の影響を受けている。また、ヨーロッパで話題になった北斎漫画の元になった絵師こそ、北尾政美だ。遠近法、俯瞰などは北尾の才能そのものなのである。北斎という名は今日では外せないものの、総称の江戸文化のほうが適していると感じているからだ。

S北斎「富嶽36景 神奈川沖浪裏」ひととき2013年12月号から 感銘したドビシーは交響詩「海」を作曲した。ブレッソンの原点の一つがここにあると思えてならない。
「ひととき」2013年12月号から
北斎「富嶽36景 神奈川沖浪裏」
この作品に感動したドビシーは交響詩「海」を作曲した。
ブレッソンの原点の一つが、これら日本の浮世絵にあると思えてならない。

これまで写真界の構図論は、3分割法で説明してきたように、あくまでも2次元であることを前提に、水平方向のXライン、垂直方向のYラインで説明してきたようなところがあるが、
私はこれにZラインを加えたい。奥行きである。これぞ鉄道写真では絶対的ラインであり、ブレッソンはじめ多くの写真家が取り入れてきたエクセレントラインであると信じている。

今回掲載した「春遅くして・・・」の、個々の作品を見てみよう。
すべてを通して見ていただくと分かるように、今回の作品で3分割法を活用しているものはない。あるのはZ軸だ。東急あざみ野俯瞰雪景は、中央にレールを配し、未開の土地にズバッと開拓した鉄道を、Z軸を持って表現している。
また小田急LSE7000系は、Z軸を否定することで構成し、この2点を組み写真の軸とした。いずれも外光は殆どなかった。
トップの小田急は現代の都会と鉄道を静かな眼差しで表ししている。一見平和そうな家の灯火をぼかし、何かを予測するようなミラーを前面に配している。不安を予知するように3点分割のスイートスポットは外している。電車はこの写真の主人公であるため、ぼかしてはいるが、最も目に付きやしい対角線の交点に位置している。またテールライトの赤が電車だけでは作品の奥行きに欠けるため、車のテールライトを取り入れた。ただし2灯にすると電車のライトが負けるため、点灯は右側の停止灯のみにした(自分の車)。
ここで大切なのは、クローズドフレームにするか、オープンフレームにするかだ。前者はこの組み写真に必要な要素がすべて整っていることを示し、後者は必要要素は整っておらず、そのほかの作品の存在を示唆するものだ。
ここでは当初、前者のクローズドフレームを予定したが、水平線を傾けることで、一枚で完結することを避けるとともに、不安感をプラスしている。何かありそうだ、次の写真を見てみよう、という流れを生み出すように構成した。地平線とミラーの柱で失われそうな奥行き感にも歯止めをかけてZ軸を生かしている。文章にするとけっこう秩序的論理的に受け取られるかもしれないが、すべては瞬間的直感的に配したものだ。以上3点はRX1Rで無音撮影している。

この組み写真の狙いは当初、無音無彩色で構成するつもりだったが、商業誌であることから幅を広げ、色彩と生活がじかに見える写真も急遽組み入れ、いわば静かな田園都市と、古くからある下町風情をミックスした形になった。
“下町”はディスタゴン18mmを主に使用した。開放値f4の暗さは、被写体に接近することでカバーした。
光には逆二乗の法則がある。光の量は、発光源からの距離の二乗に反比例するという、物理的減光衰退の法則で、ヨハネス・ケプラーが照明・・・いや証明した。
離れて望遠で撮影しても、被写体の電車に当たる光量は一定ではないかと言われそうだが、地表や人物などに当たる光の量は、反射光も含めて大幅に捉えやすいという事実がある(特に地面)。それにZ軸も表現しやすいではないか。

冒頭で趣味写真、鉄道写真には不要といいながら、構図に関する説明を長きに渡って述べた。改めて記すが、客観的記録的写真に構図論は不要である。ただし、アート作品となれば話は別で、特にRMに掲載されている路線別や車両別の組み写真になると内容と構図に対する考え方が重要になってくる。これまでのパターンを踏襲するのが組み写真と思ってはお寒い限りだ。

ところで前回の「春まちゆり」でのZ軸は、変わった方法をとっている。それは作品を見る人の、眼のZ軸を期待したものだ。アップありロングありで、見る人の心理的奥行き感を誘うというものだった。



列車番号RM368 「雪の花PARTY 東急田園都市線」 (HD)
http://www.dlmarket.jp/products/detail/259560
列車番号RM368 「雪の花PARTY 東急田園都市線」 (SD)
http://www.dlmarket.jp/products/detail/259561

*上記文章は、RM368“視線”にも掲載されている。
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